農業のIT導入

農業生産法人 グリンリーフ株式会社
代表取締役 澤浦彰治様

はじめに

2015年データによると全産業の労働生産性(GDP/就業者数)が833万円であるのに対し、農業の労働生産性は229万円とかなり低くなっています。そんな中ITの導入により生産性を上げている企業がグリンリーフ株式会社です。

IT導入の目的やポイントを事例発表して頂きました。

グリンリーフ株式会社は群馬県にある昭和37年創業者 澤浦廣治が現地で農地を買い求め、農業を始めることがきっかけで始まった、化学肥料や添加物を使わない農産物を創る企業です。1次産業の生産、2次産業の加工、3次産業の販売と掛け合わせて農業の6次産業をしています。
今は外国人労働者もおり、生産性の高い企業ですが、以前は多くの問題を抱えていました。
その問題解決に向けて導入したものの一部が下記のものです。


IT導入の事例

ファームシステム

作業者と畑にある秤と生産物が紐づけされたITシステムです。
作業者がどれだけ生産物を収穫しているのかリアルタイムで把握が出来るだけでなく、生産物を袋詰めするときの商品状態をチェックすることで作業の質もデータとして把握できるシステムです。


ミニトマトの秤、袋詰め器

幾つかのミニトマトを袋詰めするときに自動で計算されて選別されたものが袋詰めすることが出来る機械です。一つひとつの秤に通信機能が内蔵されておりBluetoothで通信されて集計することが可能です。


データのデジタル化

生産、加工、販売、社員の働きなど様々なデータを、自動でデータベースに集まるように各作業にデータ収集の機械をつけて集めるようにしています。それまではFAXで本部に送り、手入力をしていました。


IT導入前の問題

1、誰がどの程度収穫したのかわからない、手書きで行っていたがごまかす人もいた

2、上司の評価が本来の仕事量ではなく関係性によるバイアスがかかっていた

3、計量、袋詰めに時間がかかったり、やり直したり生産性が低かった

4、管理者が一緒に作業をやらないと生産性が悪いために、一緒に作業をしていた。その為、管理者は自分の仕事が作業後になり夜遅くまで仕事が続いた

5、数値の入力で間違えたり2重チェックをしたり無駄が多かった

問題をどう解決したのか

1、誰がどの程度収穫したのかわからない、手書きで行っていたがごまかす人もいた
→ファームシステムを導入前から畑には秤と生産量を記入する用紙を準備していました。しかし、ごまかす人や間違える人がいて正しい数値ではありませんでした。
ファームシステムの導入で個人個人の生産量が分かるようになります。その数値は他者と比較する為に使うのではなく、個人の生産性が上がるように、過去の数値よりも上がるようにするとともに評価制度とも連動しています。ファームシステムは1200万円ほどの投資をしましたが、収穫時の人件費で年間370万円ほど削減できています。

2、上司の評価が本来の仕事量ではなく関係性によるバイアスがかかっていた
→ファームシステム導入までは正しい数値ではない事から上司からの評価もあいまいでした。例えばそれまでの評価の高い人は上司のいう事を聞き、笑顔で仕事する人でした。
正しい数値が出ることによって、感情的ないざこざもなくなり、数値による反省が出来るようになっています。

3、計量、袋詰めに時間がかかったり、やり直したり生産性が低かった
→ミニトマトの計量器の導入事例のように、計量を人の力や感覚に頼っていたものが機械でやるために間違えが減っています。歩留まりも5%から2%まで下がっています。1200万円ほどの投資で年間250万円ほどの人件費の削減に繋がっています。

4、管理者が一緒に作業をやらないと生産性が悪いために、一緒に作業をしていた。その為、管理者は自分の仕事が作業後になり夜遅くまで仕事が続いた
→小さいころ農家の子として手伝っているころ経営主やその家族が見ていないと生産性が下がる体験をしています。これは管理しないといけないという事ではなく、働く人は経営者にいいところを見せたいという想いが実はありました。ファームシステムは一人一人の努力が見える化されることができるシステムです。それにより現場の方も熱心に働き、管理者は管理者としての仕事が出来るようになりました。

5、数値の入力で間違えたり2重チェックをしたり無駄が多かった
→以前より数値化を導入していましたが、IT化できておらず手作業により作業者が必要であると同時にどうしても人の手なのでミスがありました。それぞれにシステムを連携することで様々な生産性向上の土台が出来ています。  


導入時の障害と解決策

1、導入時の障害
新しいものを導入しようとすると今までにやっていない、難しいという反発の声がありました。つまり出来ない思考がありました。
またIT導入することによって自分の仕事が無くなってしまうという不安を持っている人もいました。

2、解決策
どんな声があっても社長がやると決めて導入しました。但し、現場にただやれ!という関わりではなく目的とメリットを伝え続けてひとり一人理解をしてもらって導入しています。
目的としては帰る時間を早くしたり、賃金をあげられたりするようにという話をされています。
また現場の社員さんの困ったに対して解決できることを事例に沿って説明しています。

3、導入結果
もともと一生懸命やろうという人は成果も上がり非常に喜んでいます。結果として上記のような事例のように生産性が上がっています。逆に辞めていった人は今考えると楽をしよう、不正をしよう、としていた人だと思うと回想されています。

今後導入される人へのアドバイス

今やっていることをそのままIT化しようとすると、IT化することが目的となり失敗します。現場を見てボトルネックを見つけ、何を解決すべきかを、何を人がしなくなるといいのかを見極める必要があります。

まとめ

生産性の高いグリーンリーフ様は今日の仕事に対して明日成果が見える用になる事、精神的な負担も含めてスタッフの負担を減らし、その分をお客様の満足や関係性強化をすることを目的にIT化を勧めています。
導入時には出来ない思考が現場にもありましたが、経営者がまずやると決めて導入するとともに、現場に丁寧に目的や現場のメリットを伝え導入していきます。
同時に導入にかかる費用に対しての効果性を全体でも個人でも数値化しています。
それによって一人一人のやる気、熟練度も上がりより生産性の高い、お客様満足に目を向けた経営をする企業となっています。