中小企業の海外進出【黒田精機製作所】

株式会社黒田精機製作所
代表取締役社長 黒田敏裕氏


代表取締役社長 黒田敏裕氏

はじめに


2021年11月15日(月)に行われました、Webinar Japan株式会社主催の経営サバイバルダイアログでは「中小企業の海外進出」がテーマでした。3名の実務経営者と1名のコメンテーター、グループ代表田舞が質疑応答や議論をした内容のうち黒田様にスポットを当ててまとめたレポートです。

黒田精機製作所【概要】

1925年(大正14年)創業
本社:愛知県名古屋市
主製品はホイルシリンダー・ピストン、ABS部品、オイルポンプ・シャフト、オイルポンプ・バルブ、他、油圧部品など自動車のブレーキ部品、エンジン部品などを主に製造されています。
トヨタ車のドラム・ブレーキのほぼ100%に弊社のピストンが採用されています。
国内に2工場のほか、1995年タイへ、2012年中国へ、2014年メキシコと。
三か国に進出されています。

海外工場でも日本的オペレーション(5S活動や13の徳目を使った朝礼、QQCサークル)をされています。


海外進出のきっかけ

まず初めに黒田社長に海外進出のきっかけと目的をお聞きしました?

1990年代に日本企業の、特に自動車企業が海外進出、海外への工場設立が盛んに行われていました。
そんな中1995年に合弁会社で海外に工場を出さないかというお話を頂きました。当時のタイ政府がアジアのデトロイト構想にしようと働きかけもあり優遇措置もある中での進出でした。
株式会社トヨタの東南アジアでの販売も順調になり、それに合わせて合弁会社だけでなく自社としても工場を持つようになりました。
自動車関連業ですと、親会社から海外進出を低減されることもあるそうですが、わが社は独自の判断で進出をしてきました


メキシコへの進出

メキシコへの進出はどのようなきっかけや目的があったのでしょうか?

海外の取引が増える中で、メキシコで創ったブレーキシステムがアメリカに輸出されて、アメリカで製造されるという事が増えていきました。ライバルは中国とヨーロッパの会社で先にメキシコに進出されてしまい商圏を脅かされる前に進出しました。


メキシコ工場責任者 黒田崇裕様

海外進出のリスク

海外進出となると日本では起きない問題やリスクがあると思いますが、どのような問題があり、どのように克服されてきましたか?

1997年2月合弁会社が稼働してその年の7月にアジア通貨危機を体験しました。バーツの価値が半分になったときには負債が一気に増えて一晩で債務超過になるほどでした。その為に合弁会社でタイの出資者は破産した会社もありました。
ただ、合弁であることや日本の大手商社も参画していたために、資本増強をしてくれて存続しています。
海外との取引なので為替の問題は必ずありますが、この分野をどうマネジメントするのかという事は常に課題になってきます。


ヨーロッパの会社に取引を始めた時も問題がありました。日本工場へ卸す基準と同じでヨーロッパに輸出しようとしたときに、品質の考え方の違いで大きな損失を創ったこともあります。
背景には日本とヨーロッパやアメリカの基準の違いがあったと思います。欧米では品質検査の役割の人は良いか悪いかの判断のみ、欠点がないかを見るのが役割です。1つでも見つけたら返品してすぐに新しいものを要求されました。生産計画は崩れ、すぐ送るために空輸を使い更にコストがかかるという経験があります。
そこから新しいお客様との取引の場合は、企業文化まで見るようにしています。

メキシコについてはメキシコ工場の責任者でご子息の黒田 崇裕様より報告を頂きました。
メキシコは陽気で明るい人間性ですが、就職に対する考え方が日本とは違います。大学に行くときから、このような仕事をするために学んで就職します。その為にジョブホッピングやヘッドハンティングは日常的な事です。
その為に日本よりも育てた人がすぐに辞めてしまうリスクも高いです。
ですから、人に仕事をつけるのではなく、仕事に人をつけるマネジメントをして、例え人が入れ替わっても仕事が出来る状況を創っています。

タイ工場の問題点

タイに工場があるという事で、TPPからRCEPへの注目度も高まる中でどんな変化があると予想されますか?

今品物によってそれぞれ関税が掛けられていますが、RCEPにより日本から中国への関税が引き下げられます。但し、サプライチェーンがどう変化するのかという部分まではまだ把握が出来ていないです。


中国への進出は?

中国に進出される企業も多い中で、貴社はどのようにお考えですか?

我が社では研削の技術が日本工場においても非常に重要であり、技能員のノウハウが必要になってきます。その為に育てるのに時間がかかる中で定着が難しいとなると、品質が安定しないという理由で中国への進出は考えておりません。
また中国ではライバル企業との競争も更に激化する環境が予想しています。タイヤメキシコのライバル会社はヨーロッパやアメリカですが、中国では中国にある企業がライバルになります。国で補助金などのサポートもある企業との競争は避けたいという考えもあります。

COP26の影響

先日COP26もあり環境問題が経営に与える影響も大きくなる中で、どのようにお考えでしょうか?

自動車の場合は、自動車が走るときに排出するCO2と生産時に排出するCO2の両面問題になります。先日の情報では日本でもトヨタとマツダとスバルがアライアンスを組んで対策車の開発に力を入れるようです。
ヨーロッパでもEVだけのイメージがありますが、それ以外のCO2排出がなければ問題ないようです。
ただし、ヨーロッパの工場では既にカーボンニュートラルが達成されており、日本は遅れている且つ再生可能エネルギーが使えないとなると日本での生産は難しくなる可能性があると思っています。

EVに変わっていく中で、エンジンが無くなる可能性もあると思っています。ブレーキに関しては電気自動車でも供給していきますので、そこのシェアをどれだけに出来るかがポイントです。合わせてそれでも足りない部分を新しい分野に進出していきたいと考えております。

海外進出で得たもの

海外進出のメリットをどのように感じていますか?

日本政府系の国際協力銀行から融資を出来たことはあります。また海外に行った事でヨーロッパやアメリカの市場を見つけ、開拓できたという面でメリットと言えます。
社員さんの成長の機会にもなっており、駐在員としていく事によって幅広く物事を考えられるようになってきています。日本と海外の違いから多様性の認識も深まっていると思います。
日本の人手不足に対して海外では日本と比べて少ない投資で大きな生産能力を得られるという事が非常に大きなメリットとして感じています。